私は今、IT企業で人事担当者として、従業員との個別面談を行っています。
面談を行っていると、
「やりたいことが見つからないです。どうすれば見つかりますか?」
とたずねてくる人がとても多いです。そんな人たちのやりたいこと探しにとても参考になるのが、
という本です。私自身、迷っていた時に、この本に出会い、何度も読み、何度も紙に書き、頭の中を整理することができました。今回はこの本のご紹介をします。
あなたの大事なことはなんですか?
この本ではやりたいことを3つの視点で探していきます。
- 大事なこと(なぜやるか?)
- 得意なこと(どうやるか?)
- 好きなこと(何をやるか?)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
大事なこと(なぜやるか?)
一般的に言われる「価値観」に近いものです。キャリア理論ではキャリアアンカーとも呼ばれます。これが認識できていないと、その時代のはやりすたりや、自分の置かれている状況などによって、選択の場面で迷うことになります。
たとえば、目的のない転職を繰り返したり、モチベーションが上がらず毎日漫然と仕事をしたり、ということが起こります。この本では、大事なことを見つけるために30の質問を用意しています。たとえば、次のような質問があります。
尊敬する人、尊敬する友人、好きなキャラクターは誰ですか?
その人のどんなところを尊敬していますか?
歴史上の人物や有名人である必要はありません。ちなみに私は「モンキー・D・ルフィー」を選びました。大切なのは、その人が何をやったかではなく、価値観という視点で考えることです。
その人の何が魅力なのか?なぜその人を尊敬しているのか?
これらを考えてみると自分の価値観が見つかるでしょう。価値観については自分では気づいていないことも多いので、会社の同僚、家族、友人などに聞いてみるのも一つの手です。新たな発見があるかもしれません。
得意なこと(どうやるか?)
この本では得意なことを「成果を出すために使える無意識な思考・感情・行動パターン」と定義しています。得意というと能力やスキルだと考えがちですが、この本では「クセ」のようなものと解説しています。
そしてクセ自体に良いも悪いもなく、どう認識するかで長所にも短所にもなります。この考え方は、得意探しをするにあたって、物事をフラットに見ることができる視点です。
たとえば「物事に慎重に取り組む」というクセがあったとします。経理などミスのない作業を求められる仕事であれば長所になります。一方で、スピードを求められる仕事であればそれは短所になります。自分のクセを認識した上で、どうすれば長所として発揮されるのかを理解することが大事になってきます。
そして、得意なことを見つける質問も用意されています。たとえば
「これまでに人生で充実していた体験はなんですか?」
という質問があります。成功体験ではなく、充実体験を考えることがこの質問のミソです。成功とか失敗ではなく、本人が充実していると感じていることが大事なのです。ここで思いついたものが、あなたの「クセ」と言えるでしょう。
好きなこと(何をやるか?)
好きなことの定義は「興味・好奇心を感じる分野」とあります。疑問を疑問のままにしておくのに耐えられず、知らないことを知っていることに置き換えたくなる気持ちこそが「好き」です。
たとえば、ラーメンが好きな人であれば「おいしいラーメンとまずいラーメンの違いはなんだろう?」と考えるでしょう。自己理解が好きな人は「どうすればもっと自分のことを知ることができるんだろう?」と考えるでしょう。この気持ちが「好き」なのです。
ただ、仕事として考える場合には、「どんなところが好きなのか?」をセットにして考えることが大切です。たとえば、「野球が好き!」という場合、野球のどんなところが好きなのかも一緒に考えないと、仕事にした時のミスマッチが起きかねません。
- チームプレイが好き
- 能力を高めることが好き
- 戦略を考えることが好き
- 体を動かすことが好き
好きにも色々あります。こんな風に好きな理由を深堀りしてみると、新しい自分を発見できるかもしれませんね。
本当にやりたいことを決めて、本当の自分を生き始める
ここまで「大事なこと」「得意なこと」「好きなこと」の3つについて考えてきました。見つかった3つを組み合わせて「やりたいこと」を見つけていきます。しかし、その前に仕事として成り立たせるためには、「仕事の目的」という視点が必要です。仕事でお金を受け取ることができるのは、お客さんに価値を与えて「ありがとう!」と思われた時です。あなたのやりたいことに人はお金を払わないのです。
たとえば、あなたが服を作る人だとしたら、お客さんは「服を身に着けて自信を持っている自分」を買っているのかもしれません。自己理解であれば、お客さんは「仕事に夢中になっている自分」を買ってくれているのかもしれません。ここまで考えてきて「やりたいこと」がいくつか見つかったことでしょう。そのいくつかの中から本当にやりたいことを選び出すためのフィルターがこの「仕事の目的」なのです。
たとえば、下記の3つが見つかったとします。
- 大事なこと:やりたいことに夢中になる
- 好きなこと:自己理解
- 得意なこと:納得できる戦略を立てることに時間を使う
この場合、「ビジョンの実現をサポートする戦略コンサルタント」「独立したい人向けの起業コンサルタント」などが候補として浮かんできます。
- 好きなこと:自己理解、ボードゲーム
- 得意なこと:情報を整理して体系立てて説明する、わくわくするアイデアを考える。
このケースでは「教育系ボードゲームを作る人」などが考えられますね。この時点では、仮説でOKです。とにかくたくさん書き出してみることで、頭の中を見える化でき、出てきたアイデアを組み合わせたりかけ合わせたりできるようになります。
やりたいこと、ってないとダメなの?
面談を行っている中で、多いのがこの質問です。
- そもそも、やりたいこととか、やりがいってないとダメなの?
- 上司にやりがいと見つけろって言われた
本人が見つけたいと思っていないのであれば、無理やり見つけようとする必要はないと私は思っています。そんなものを見つけようとしなくても、毎日が充実していればそれでいいのです。ひょっとしたら見つかっているけど、本人が気づいていないだけのこともかもしれませんし。
今、さらっと書きましたが、何のためにやりたいことを見つけるのか、という問いへの答えは「毎日充実して過ごすこと」だと私は思います。本書では最後に「やりたいこと探しをさっさと終わらせて、夢中になっている自分を手に入れてください」と結んでいます。
やりたいことが見つかれば、そのやりたいことに役立つ情報はないだろうかとアンテナが立って、どんどん情報が集まってくるようになります。私自身も、やりたいことが定まり、行動を起こすことで、それまでとは全然違う自分に驚いています。何かがかみ合った感覚です。目標達成はこれからですが、その過程を楽しんでいる自分がいます。ぜひ皆さんにも同じような楽しみを味わってもらいたいです。
それでも、やりたいことが見つからない人のために
今までの記事の流れをちゃぶ台返しするような内容かもしれませんが、先月、会社で開かれたキャリアデザインの講習で、興味深いお話があったので、ご紹介して終わりにしたいと思います。
「やりたいことを探しましょう、と言ってもなかなか見つからないですよね?そんな時はMust、Can、Will」の方向で考えてもいいですよ」というお話がありました。
会社勤めをしていると、自分が本当にやりたい仕事ができている人は少数で、会社から与えられた仕事をこなしている人が多数でしょう。その中でやりたいことを探そうとしても、仕事をこなすのが精いっぱい。思いついたとしても実現に向けてのハードルは決して低くないでしょう。そのような場合、やりたいこと探しに焦るのではなく、
- まずは与えられた環境、仕事(Must)をきちんとこなしましょう。
- きちんとこなすことで、できること(Can)が増えてきます。
- できることが増えてくると、仕事を見る目も変わり、自分でいろいろと工夫していくうちに、楽しくなってくるでしょう(Will)。
という考え方でした。やりたいことがなかなか見つからない方も、この考え方で自分の仕事を改めて振り返ってみると、今後のキャリアについてのヒントが見つかるのではないでしょうか?
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